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モイゼス・カルヴァーリョ氏 留学生魅了した相撲の品格

モイゼス・カルヴァーリョ氏 モイゼス・カルヴァーリョ 1972年ブラジル生まれ。96年広島大大学院へ。2001年相撲部入部。留学生による全国国立大大会出場は06年に映画「ちゃんこ」として公開された。フィリピンの大学、京都大を経て現職。


 相撲は、単なるスポーツではなく元々、神事だったと聞いている。大相撲のあり方として用いられる「品格」とも関係があるかもしれない。
 力持ちで、大型の筋肉質の力士が土俵に上がり、立ち会いまでの儀式がある。力と技を駆使し、勝敗は相手の足の裏以外を土俵に付けるか、相手を土俵外に押し出すかだけで決まる。相撲は他の格闘技のように相手を傷つけることは目指さない。
 ブラジルで生まれ育った。グレーシー柔術には関心がなかったのに、来日して初めてテレビで見た大相撲の奥深さに、強く引きつけられた。
 広島大学の大学院で心理学を学び始めたころ、大相撲はいわゆる「若貴時代」だった。貴乃花の持つ雰囲気に魅了された。曙や武蔵丸、小錦ら大型力士の力強さにもあこがれ、広島や岡山での巡業があると稽古を見に行った。一日見ていても飽きなかった。
 来日して6年目の2001年、広大相撲部OBの勧誘で相撲部に入部した。部員は私ひとりで、そのOBは年下の院生だった。まわしに抵抗はなかった。水泳を続けていたので、当時の競技用水着よりも、まわしの方が体を覆う部分は大きいと感じたからだ。朝と夕方、すり足やてっぽう、しこ踏みに励んだ。
 年下でも先輩を敬う仕組みは理解できたし、彼も丁寧に指導してくれた。当然、暴力を振るわれることなど一度もなかった。
 オランダ人院生も入部し、留学生2人で、同年の国立大大会に出場した。身長175センチ、体重75キロの私は、日本人選手の中でも大きな方ではなかった。確か成績は1勝4敗だが、相撲部は得難い経験になった。身体だけでなく、マインドも鍛えるのが相撲だと理解できたからだ。
 現在の大相撲には残念に思う。魅力が薄れてきたのは、力士たちに「相撲は何のために取るのか」「国技とは」といった意識が希薄だからではないか。対戦相手を尊敬し、乱暴ではない取り組みで勝負するといった心構えは、外国人の私にも理解できた。表面的な勝負だけではなく、価値観を裏打ちするものがあり、これが「品格」につながるのだろう。
 来日時には「相撲のすべてがすばらしい」と感じていた。あれから20年以上が過ぎ、相撲界にもさまざまな問題があることは理解している。
 教育心理学者として申し上げたいのは、たとえ指導であったとしても暴力から何も良いものは生まれないし、国技である相撲には、その良い手本であってほしいということだ。
 来月の大阪場所開催が近づいてきた。留学生の私を魅了した大相撲の復活を心から願っている。

(京都外国語大准教授)

[京都新聞 2018年02月23日掲載]